Top >  Grateful-Japan  >  Vol.2  サーフィンフォトグラファー  U-SKE 
<< Back 1   2   3   4   Next >>

Vol.2 U-SKE サーフィンフォトグラファー


                          U-SKE
2012/08/01
サーフィンフォトグラファー U-SKE
自由であり続けることの意義と責任
  • 名前
  • : U-SKE
  • 生年月日
  • : 1976年4月13日
  • 出身地
  • : 神奈川県平塚市
  • 職業
  • : サーフィンフォトグラファー
サイズ : 身長=166cm 体重=55Kg
実績 : 2009年/STUDIO VOICE『日本の写真家100人』に選出される。
経歴 : 14歳からサーフィンを始め、19歳のときに訪れたハワイ・オアフ島ノースショアの波に魅せられカメラを持つ。帰国後、専門学校にてカメラマンとしての基本スキルを学んだ後、出版社にて、サーフィンをテーマにした連載コンテンツのカメラマンを務める傍ら自ら編集も行う。その後、フリーランスのフォトグラファーとして、冬のノースショア、インドネシア、タヒチなど、波を求めて世界中を旅する。様々な自然や波との出逢いのなかで残した作品はサーファーのみならず、幅広い層の支持を集め、大手誌の表紙を飾っている。 近年は変わりゆく自然を「写真」で記録に残す目的で、写心展を精力的に行っている。 海での出会い、さまざまな人や文化との出逢い、自然との共鳴で感じた世界を “写心” を通して伝えていきたいと願う。

「サーフィンフォトグラファー」という仕事


                          「サーフィンフォトグラファー」とは、どんな仕事をしている人なのか?大よそのイメージはできるだろう。 サーフィン誌の表紙に掲載されるような、巨大なパイプラインの中の写真、海の専門誌や観光ガイドなどで紹介されている、美しい波や海、自然の景観などの写真。そんな画を専門的に撮るカメラマンを指す。

ただ、あの写真は、いったいどうやって?どんな機材や技術を使って?撮っているのだろうか。また、どういう人を「プロ」というのか?プロと呼ばれるようになるまでには、どんな経験やスキルが必要で、その間、どうやって生計を立てているのか?ここまで聞かれると、具体的なイメージは難しそうだ。
彼らの実態を知りたいという、筆者の純粋な思いから実現した今回のインタビュー。
サーフィンフォトグラファー:U-SKE氏へのインタビュー内容を、いまこうしてまとめているが、彼の「仕事」の話を聞いた、という感覚がまるで残っていない。U-SKE氏の独特な感性と、自由気ままでありながら、信じられないほどアクティブなプライベートの話をしてもらったという感覚だ。

自由な人。

U-SKE氏の人柄をストレートに表現するとこうなる。
自由であり続けることの意義と責任を理解し、サーフィンフォトグラファーとして、それを貫き通している彼の言葉は、自由でありながらも、しっかりとした骨格が感じられた。今回はそんなU-SKE氏の言葉を紹介する。

サーフィンフォトグラファー:U-SKE氏へのインタビュー

Q: プロのサーフィンフォトグラファーになったきっかっけは?


                          地元の平塚は海が近く、親父もサーファーだったため、自分も中学から自然とサーフィンにはまっていって、19歳のときに初めて、ハワイのノースショアでサーフィンをした。その時に、世界レベルのサーファーと、海の中でカメラを持つサーフィンフォトグラファーをリアルに見た。昔から安物の一眼レフカメラを持って、いろんな写真を撮ることが好きだったが、サーフィン誌にある、巨大な波の写真やパイプラインの写真を見るのも好きだった。ノースショアのサーファーはもちろん凄かったが、それを撮っているカメラマンの方が凄いと思ってしまった。サーフィン誌で見るすごい写真を、カメラマンたちが巨大な波の中にカメラ片手に泳いで入って行って、撮っている姿をリアルで見て強い衝撃を受けた。

ノースショアのカメラマンを見て決意。

ノースショアから帰国して、すぐに大学を辞めた。
もともとやりたいことが決まっていなかった上に、昼間は好きなサーフィンをやって、夜はバイトしてお金を貯めたい、というだけの理由から、夜間の大学を選んでいた。ノースショアで「自分の人生の仕事はこれだ」という、強い思いに駆られ、そうである以上、大学は意味がないと確信した。
大学を辞めて、カメラを本気で勉強したいと思い、親を説得して2年間カメラの専門学校に通わせてもらった。
海と自然と、ダイナミックなサーフィンの写真が撮りたくて、勉強をしながら、地元のサーフィン友達や先輩をモデルに、とにかく波の写真を撮りまくりながら、ノースショアの波にチャレンジしたくて、バイトで資金をためては、ハワイに通った。卒業作品を撮ったのもハワイで、それ以降、ハワイには毎年通っている。

Q:カメラマンとしての師匠は?

世界中にある専門誌が自分の師匠。


                          カメラマンとしての師匠はいないが、強いていえば、世界のサーフィン誌や海や自然の専門誌。写真の世界では、あらゆる誌面で紹介されている作品自体が手本になる。たとえば、自分と同じ場所に入っていた別の知り合いのカメラマンが、自分が撮ったことがないような写真を撮って、それが専門誌のカバーを飾ったり、写真集になることがあるが、そんな作品が自分の師匠になる。カバー写真を飾ったカメラマンと海で会うと、「おー!俺が撮ったあのカバー写真見たか?お前もいた、あの日に撮ったやつだぞ!」などと、お互いに作品を自慢したり、評価しあったりする。

同じプロカメラマンとしての共感は大きい。

お互いに海とカメラが大好きだ!という共通点があるから、共感するところは多い。
他のカメラマンが使っていた道具や、どんな角度・光の加減で撮ったか?など情報シェアをしたりする。お互いにライバル意識と共に、仲間意識もあって、仲が良くなると、自分が使っているカメラやハウジングの職人を紹介してくれたりもする。

Q:サーフィンフォトグラファーが使うカメラとは? 普通のカメラと違う?

カメラそのものは違わないが、みんな海の中で撮りやすいように、カスタマイズをしている。
ウォーターハウジングといって、防水性と撮影機能を確保するために改良するという意味を指すが、最初はやり方が分からなかったため、みんなプロの真似から入ってパクリまくる。自分の場合は、ハワイの知り合いのカメラマンに教えてもらって、慣れたら自分の使いたい機能、撮りたい画に合わせてカスタマイズした。

Q:先ほどの「カバー写真を狙う」とは?

自然の中のスクープを捉えるのがプロ。


                          単純に良い写真が雑誌の表紙を飾るから、カメラマンにとって専門誌の表紙を飾るのは一種のステータスになる。サーファーカメラマンは、スタジオじゃなく、常に自然の中で撮るから、いい写真が撮れるチャンスは保証されていない。その中で、カバーを飾るほどの写真を撮るのは、ジャーナリズム的な言い方をすると、一種のスクープになり、スクープをきっちり捉えることができるのが、プロの条件だと思う。

自分では作れない「自然」というシチュエーションが被写体であるため、リアルタイムに、“その場所”にいないと絶対に撮れないから、自分の情報網と勘を頼りにその場所に行くしかない。今日台風のうねりが四国に来る情報が入ったので、荷物積んで今夜から車で行く。海外に撮りに行く時も、お金になる保証がない中で自分の持ち出しで行くから、考えてみればギャンブルだけど、スポンサーから予算がもらえるのを待っていたら、仕事にならない。思い立ったらハワイでもタヒチでも、バリでも、その場に行って、その時、その場所でしか撮れない画を狙う。

Q:サーフィンフォトグラファーはどうやって稼いでいる?

プロサーファーのスーパーショットを撮る。

カバー写真を飾るとお金になるし、お金以上の大きな喜びがあったから、以前はそんな写真を撮りまくっていた。スポンサーありきのカバーや、コンテンツばかりが増えてしまうと、ジャーナリズムが失われてしまうので、さびしい気がするけど、カメラマンの収入のベースは、そういうところで創られている。
いい写真は雑誌や、サーフブランドが買ってくれる。頻繁にカバー写真やブランドのPRに採用されているカメラマンは知名度も上がって、スポンサーが付いて、仕事も増えてくる。だから、みんな最初は雑誌やブランドが買いやすい写真を撮る。

波がでかくて形もいい日には、そのポイントにはプロサーファーが集まる。そのタイミングに海に入って、彼らが技を決めやすいポイントで待機して、派手なリップや、チューブ、エアーを決めている写真を撮りまくる。そこで撮ったサーファーのボードやウェットスーツに、大きくロゴが入っていたりすると、サーフィンブランドもPRになるから、ぜひ買いたい!というわけ。
海外の有名なポイントで、波が当たっている日に、ケリースレーターやロブマチャドなど人気のトッププロが入ると、カメラマン達もここぞ!とばかりに集まる。トッププロは知名度だけじゃなく、技も切れているから、良いショットを撮れる可能性が高くなるからね。サーファーが波をゲットするためにポイント争いをするのと同じで、カメラマンは彼らのスーパーショットを撮るために、過酷なポイント争いをしている。

Q:やはりハワィの波が世界一?

ノースショアの波と戦うのはプロの条件。


                          ハワイの波は別格。特にノースショアは世界一過酷な場所で、そこでやっているから自分の限界を知っているし、ノースショア以外で、自分の限界まで感じたことはない。だから、ハワイのトップシーズンにその場にいない時点で、プロのサーフィンフォトグラファーとしては失格だと思う。サッカー専門のジャーナリストが、ワールドカップの取材や、日本代表の試合に取材に行かないのと同じで、そんなカメラマンはプロとは言えない。

Q:いい写真を撮るには、どれくらい体力がいる?


                          ハワイやタヒチだと、常に強いカレント(潮流)があって、足がつかない海の中で何時間も立泳ぎをして、ポジションを確保する必要があるから、相当な体力が必要。体力がなければカレントに流されてしまう。自分は身長166cm/体重55kgとかなり小柄な方だけど、サーフィンフォトグラファーは基本、ゴッツい奴が多い。ノースショアのカメラマンからは、「この画をお前が撮ったのか?」とよくびっくりされることがある。笑。
自分は体を創るために、サーフィンとヨガを取り入れている。ヨガは20代の前半にハワイでお世話になったカメラマンが、生活全般にヨガを取り入れていて、それ以降、自分もストレッチや呼吸法、体で自然を感じる感覚などを活用している。サーフィンにも撮影にも良いと思う。

Q:ケガをすることもある?

ケガしてしまうことはどうしてもある。
いい波が立つポイントは、海底がリーフ(岩礁やサンゴ礁)であることが多いし、波のサイズが大きいわりに海底までの深さがすごく浅いこともある。自分の身長の何倍ものサイズがある波では、波が早いし、巻く力もものすごく強い。パイプラインの深いところで、粘り過ぎていると、気付いたら体ごと持っていかれてしまう。
海底に激突して、リーフで体中を切ったり、鼻の骨を折ってしまったこともある。 経験と共にケガが少なくなるということもあるし、ケガをせずに、スマートに撮る方がプロとしてかっこいいので、可能な限り避けるべきだが、ギリギリの瞬間を狙っている以上は、覚悟が必要と受け入れている。
ただ、どこまでが自分の限界かを見極めることが重要で、「俺はここまで攻めている!」という、特攻自慢的なモチベーションは持たないようにしている。

Q:海に入る前に撮る画をイメージしている?


                          理想の画をいつもイメージしている。
今日はこんな光の加減で、こんな角度からの画を撮る!と、その日撮りたい画のイメージを明確に決めてから、その画が撮れる時間と場所を狙って海に入る。朝日の光の角度を使った写真を撮りたいときは、日の出からのわずかな時間を狙って、夜明け前から海の中で波を待つ。季節ごとに日が昇る時間も、角度も違うため、狙いをつけて、理想の波を待っている。

Q:いい画を撮るために必要なことは?技術?忍耐?運?


                          十分な準備と行動力、あとは勘と運だと思う。
気候や海の情報は、気象予報や波情報から誰でも手に入るが、それぞれのポイントの地形や、潮回りと共に変化する波の特性などの深い情報は、地元の人でしか知りえない情報でそれが貴重。さまざまなポイントで、そういったレアな情報網を持ち、それを活用するための事前準備と、行動力を持つことが重要。
それでも、実際にいい画が撮れるかどうかは、経験からくる勘や運に頼るところが大きい。
光の向きによって水の色は変わるし、潮の流れや、風の向き、うねりの大きさ、同じ海でもすべてがいつもと違う。その時のたまたまの光の反射具合、その時にたまたま立った水しぶき、その時にたまたま飛んでいた鳥、その時の泡がたまたま美しかった。自分が持つカメラのレンズに、そんな“自然”のフィルターがかかって、さらにいろんな” 偶然 “が重なって、自分で狙っていた以上の奇跡の瞬間を切り取れることがある。その時は心から自然に感謝をするし、その感覚を味わってしまうと、もうやめられない。

Q:サーフィンフォトグラファーは、皆サーフィンをやっている?

サーフィンをやることが波の形や特性を理解しやすいし、いい画を撮る勘が働くと思うので、ほとんどのカメラマンがサーフィンを経験している。やっていない人も、プロサーファーからのアドバイスなどを聞き入れて活かしていると思う。波の写真を撮るセオリーはあるが、プロはみんなオリジナリティを追求していて、中にはボディボードに乗って撮っているなど、撮影手法にも活かしている。

Q:海外での長期滞在時はどうやって暮らしている?

自然のリズムと共にスケジュールを決める。

海外に長期滞在する時は知り合いの家に間借りして住んでいることが多い。「ガレージが空いているから、好きに使っていいぞ」とか。「離れ小屋の中を整理すれば、そこに住んでいいぞ」など。ふつうに住環境として考えると、快適とは言えないかもしれないけど、自分にとっては非常に良い環境。

これは海外でも日本でもやっているけど、「朝のパトロール」といって、夜明け前に30~40分くらい自転車で海を見に行き、1日のスケジュールを決める。朝の光が特に好きだから、基本毎朝撮りに行っている。
波がなくても、朝日とマッチングして、素晴らしい画が撮れる時もある。その後、1~2時間程度サーフィンも楽しんだりする時もある。笑。海から帰ってきたあと、ヨガをやって精神統一をする。自然のリズムと共にスケジュールを決めて、それに沿って過ごすことができるので、これ以上の環境はない。波がでかければ、1日中海で撮影し、波が来なければ、1日中ガレージにこもってデスクワークをする、といったように自然に合わせて行動を決める。

Q:仕事として考えたとき、今はどんな活動を?

仕事での撮影依頼もいただくが、今は自らやる展示会や個展が中心で、それ以外は可能な限りフリーに活動するようにしている。フリーなスタンスを重視しているのは、仕事に時間を縛られて、何年に一度しか撮れない素晴らしい画を取り逃がしたくないから。今は一生の財産になるような、素晴らしい画を残すことが自分の役割だと思っているし、そういった理由から、仕事を受ける時も、可能な限りスケジュールには猶予を持たせていただくようにしている。
365日、気持ちはいつでもスタンバイの状態。ハワイでも2~3か月間もいて、いい画が撮れる日は限られているから、その濃縮された何時間かを仕事を理由に失うことだけはしたくない。

純粋に残したいと思う画を撮っている。


                          去年の震災が大きな転機になって、自分が撮りたい写真、残したい画の考え方が変わり、純粋に「いま」を写真に残したいと思うようになった。震災のニュースはハワイで見た。テレビを通して見たのは、自分が何度も足を運んで、地元のサーファーたちと一緒にサーフィンしたり、波の写真を撮っていた福島の海の無残な映像だった。強いショックを受けて、その時に日本にいない自分、行くこともできない自分に、とてもやるせない思いに駆られた。震災のような自然災害によって、あるいは埋め立てなどの人工的な理由によって、背景は違っても、海は、どんどん変化していってしまうこと事をその時に実感して、「いま」の画を残したいと強く思った。

自分の地元である平塚でさえ、親父が持っている小さいころの写真は「いま」と全然違う。大人になると、写真や画で残っていないとその時の「いま」がどんどん忘れられてしまう。だから、自分が年をとったり、死んでしまった後でも残るように「画」として記録を残したい。

いい波は50年前も、100年後も変わらない。

また、「波」という視点で見ると「いい波」とは、時代を問わず変わらないはず。
1950年も、2012年も、2112年でも、サーファーや海が好きな人にとっての、「いい波」の概念は変わらないと思うし、自分がいま「いい波」として、撮っている画は、いつの時代にも「いい波」として、見る人の心に訴えかけると思う。ただ、何十年・何百年に「いい波」が立っている保証はない。いい波が立つ海岸や、その周りの自然環境が失われてしまっている可能性もあるし、人口の海や波に変わってしまっている可能性だってある。だから、今のいい画を自分の可能な限り撮り続けて残していきたいと思っている。

この写真も地元で撮った画。
葛飾北斎の作品で「神奈川沖浪裏」(=波間に富士山が描かれている画)のような画を撮ろうと、撮った1枚。

これは「世界に誇る日本の波」という雑誌の表紙を飾った同じく地元の1枚。

地元の人でさえも「これが地元の写真なのか?」と驚いてくれる。そんな美しい写真を撮りたい。
自分がいま、積極的に個展や展示会をやっているのは、写真を通して、これまで知らなかったもの、その場所の魅力に気づいて欲しいという思いがある。自分が撮った画をみて、海に興味を持ってくれたり、好きになってくれる人が増えれば、自然に海を大切にする人が増えると思うし、自分がサーフィンフォトグラファーをやっている意味があると考えている。

Q:何歳くらいまで現役でいたい?

本心はカメラを持って最後は海で死にたい。ただそれはプロとしてダサいし、何より人に迷惑をかける。
自分はいわゆる遊泳禁止の日に、好んで海に入っているわけなので、人に迷惑をかけずに、自己責任のもとでやることが大前提だと思っている。

Q:最後に好きなことを続けていくコツとは?

続けられるコツは情熱あるのみ。

自分が落ちそうになったときにも、それに勝てるだけの情熱を持つこと。
好きなことに突っ込めば突っ込むほど、自分の強い情熱に気づけると思う。
そのことで、逃すものもあるのかも知れないが、つかめるものの方が大きい。

とは言いながら、自分はいつも波乗り感覚。笑
いい波が来る時もあれば、まったく来ない時もある。
いい波が来ているのに、気付かず逃してしまうときもあるし、
自分が思い描いた通りに乗りこなせて、最高の気持ちになれる時もある。
後悔しないように、自分の感性に従うことだと思います。

<記者:HIDE>

Vol.2 U-SKE   サーフィンフォトグラファー
<< Back 1   2   3   4   Next >>